196 研究系及び研究施設の現状
田 中 彰 治(助手) (1989 年 4 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:非ベンゼン系芳香族化学、分子スケールエレクトロニクス
A -2) 研究課題:
a) 大型分子内における単一荷電キャリアーの外的制御原理の探索 b) 各種基板表面における鎖状大型分子の合目的分子配列に関する研究
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 非周期型・定序配列性高分子アーキクチャの分子スケールエレクトロニクスへの展開として,当研究室では「単一 巨大分子内単電子/正孔素子回路」の逐次精密構築について検討を進めている。「位置選択的カップリング用の置 換基」と「H U B 機能ユニット(これを基点として数ステップ以内に20種以上の機能ユニットに変換可能)」を付 与した 1–10 nm 長級の汎用構築ブロックのグラムスケールの合成法を確立した。これにより分子鎖長を 1–30 nm の 範囲で 1 nm 刻みで指定することが可能となり,かつ様々なサイズとタイプのポテンシャル井戸やポテンシャルバ リアを任意の位置に導入することについても実験的に目処をつけた。結果,理論や単分子計測グループにとっても 新鮮で魅力ある分子群の提供を行えるようになったと考えている。また,計測結果からのフィードバックにも従来 よりも迅速に対応可能となっている。
b) 本項目は,横浜市大・横山Gとの共同研究に基づく。嵩高いブロック状置換基と長鎖アルキル基を合せ持つチオフェ ンオリゴマー分子は,基板上での分子鎖内配座異性体や鏡像異性体の S T M による識別が容易なことが判明したの を契機に,「分子構造」と「基板上での分子鎖配座や分子集合形態」との相関について詳細かつ系統的に検討を進 めることにした。現在までに,主鎖長やアルキル側鎖長を系統的に変化させた10種以上のチオフェンオリゴマー を作製し,A u(111),A g(110),C u(100) 表面上における存在形態を高分解 S T M で観測した。従来,オリゴチオフェ ンの基板上での集合様式は単結晶中のそれと類似する… … との一見当然そうな知見が報告されていたが,低被覆率 条件下に特殊な形状の置換基を有する系では多様な分子配向が認められた。その支配因子を明らかにすることから, 懸案の「基板上での大型分子の合目的・精密配置」の方法論にアプローチしている。
B -1) 学術論文
T. YOKOYAMA, S. KURATA and S. TANAKA, “Direct Identification of Conformational Isomers of Adsorbed Oligothiophene on Cu(100),” J. Phys. Chem. B 110, 18130–18133 (2006).
B -7) 学会および社会的活動 学会の組織委員
分子研分子物質開発研究センター・特別シンポジウム「分子スケールエレクトロニクスにおける新規分子物質開発」主催者 (1998).
応用物理学会・日本化学会合同シンポジウム「21世紀の分子エレクトロニクス研究の展望と課題—分子設計・合成・ デバイスからコンピュータへ—」日本化学会側準備・運営担当 (2000).
研究系及び研究施設の現状 197 第12回日本MRS学術シンポジウム:セッション H「単一電子デバイス・マテリアルの開発最前線〜分子系・ナノ固体系 の単一電子デバイス〜」共同チェア (2000).
F irst International C onference on Molecular E lectronics and Bioelectronics 組織委員 (2001).
B -10)外部獲得資金
基盤研究 (C )(2), 「定序配列・低エネルギーギャップ型高次ヘテロ環π 共役オリゴマーの構築」, 田中彰治 (1996年 -1997年 ). 基盤研究 (C )(2), 「高度の電子輸送能を有するナノスケール単一分子電線の創出」, 田中彰治 (1998年 -1999年 ).
基盤研究 ( C ) (2) , 「シリコンナノテクノロジーとの融合を目指した機能集積型巨大パイ共役分子の開発」, 田中彰治 (2000 年 -2001年 ).
C ) 研究活動の課題と展望
この一年で,これまで開発してきた単電子/正孔素子用の分子モジュールの組み立てが進み,いかにもそれらしい雰囲気の 大型分子ができてきた。結果,理論や分子計測の共同研究者の方々に,遠慮なくプレッシャーをかけることができる。但し, 測定結果から手厳しいカウンターが返ってくる確率は多大であるが,それこそが学際的研究の醍醐味であろう。また,「何が 可能になったか」を理解した人からは,必要な分子について具体的かつ理想的(←無理難題と同義)な仕様の指定がくるよう になるが,それには体力勝負で期待に応なければならないと考えている。それにより,いにしえの「定番分子」が威張っている 世界にいる方々を,豊潤で未開の非周期型・定序配列性π 共役巨大分子の世界に誘うためである。キャッチコピーは「分子 科学の出エジプト」であるが,出エジプトした人々は40年間荒野を放浪後,殆どが約束の地にたどり着けなかったことは内緒 にしておくべきであろう。